消毒液の味

最近は例のアレのせいで、どこに寄っても入り口に消毒液が置いてある。

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湿気が多い時期だと中々消毒液が乾かなくて嫌だよね、とかまあそれはいいとして、個人的に「消毒液」の文字を見るたびに思い出してしまう中学生の時のエピソードがある。

消毒液の味がする

中学生の時の話。

給食の時間に、クラスの中のひとりが、おかずの漬け物を指差して「これ、消毒液の匂いがする!」と言い出した。

すると、周りの生徒たちも皆口々に「たしかに」とうなずいた。

しまいには、先生まで「変な匂いがするなら食べなくていいから」と言い出す始末だった。

さて、その中で一人、俺は全くその感性が理解できないでいた。

それもそのはずで、俺はその時、「消毒液」を「ショートケーキ」と聞き間違えていた。

ショートケーキは甘くない

俺は自分の味覚だけおかしいのかと不安になって、隣の席のやつに「ショートケーキの味なんかしないよね?ショートケーキってさあ、ほら、もっと甘いよね?」と率直な疑問を聞いてみた。

すると隣のやつは、先ず驚き、次に大笑いして「いやそもそも消毒液は甘くないだろ」と言ってきたので、俺はますます混乱した。

みんなにとっては、漬け物はショートケーキの味がする、しかもショートケーキは漬け物ほどには甘くないらしい。

もう軽い疑心暗鬼状態だ。

さらに悪いことに、その隣の席のやつが「こいつ、消毒液が甘いって言うんだけど」と周りに尋ね始めたからもう大変だ。

俺は「いや、いいから、今のなしで」とそいつを抑えて、なんとかその場はことなきを得た。

その後、ふと、有史以前から社会的認知は多数決により決定されてきたのだった、ということを思い出したので、消毒液の話題についてはそれ以上喋らないようにしてやり過ごした。

ここからは話盛ってる

さて、俺がいた中学校では、給食の時間が終わるとみんなで食器を配膳室に片付けに行く制度があったのだが、運の悪い(?)ことに、配膳室には消毒液が置いてあった。

配膳室で片付けが終わると、一緒に片付けていたやつの一人が、俺に消毒液を突きつけてきて「これ、本当に甘く感じるの?」と聞いてきた。

その瞬間、脳みその中で全てが繋がった。

ああ!ショートケーキって、消毒液ね、と。

もやもやが一気に晴れた。

しかし中学生というのは、簡単に間違いを認められるほど素直じゃない。

中学生はメンツで生きているのだ。

俺は脊髄反射で嘘をついて「まあ、甘いね」とこたえた。

すると、そいつもなんだか自分の味覚が信じられないような顔になって「マジ?」と興味津々で聞いてくる。

マジなわけねえだろ。

しかし俺は黙ってうなずいた。

「本当かな…」とそいつは手に消毒液を垂らし、おそるおそる舌で舐めた。

本気か?と思いつつ、俺もそれを固唾を飲んで見守る。

実際、消毒液を直接なめる人間を見るのは後にも先にもこれきりだったし、どんな味がするのか気になった。

そいつはしばらく口の中で舌を動かし、難しそうな顔をしていた。

「どう?」と聞くと、「まあ確かにちょっと甘いのかな〜言われてみれば」と。

言ってみるもんだな。

それで、逆に驚いたのはこっちだった。

嘘から出たまことか?と思いつつ、消毒液を手に取ってさっと舐めた。

が、まあ、結果は言うまでもなく。

それで中学生ながらに、感じる事とか言う事とか、ずいぶん適当なものだと思ったのだった。